メモ:欧米の助成金事情
吉田あみさんの「朝まで生LOOP「激論! ど〜する!?ど〜なる!?ど〜したい!? 実験音楽」で語り切れなかったことを読んで、欧米の助成金事情について「あー、日本の常識から考えるとそう感じるかも!でも、私のリアルとちょっと違う!」と思ったことがあって、「こういう視点や事実もあります」というつけたしメモを、あみさんに送るためにまとめました。それで、それをここに置いといてshareしたら、誰かの役に立つこともあるかな、と思っておいとくことにしました。
あみさんの前述のブログポスト、複数の話し手の参加するこんな感じのイベントという場でおきたことに、ちゃんと落とし前つけようと行動してるのがすごいと思うし、文章も誠意が感じられて各方面にフェアであろうとしているのが伝わってくる。ぐわっとパワーをもらいました。
言葉とか国の問題だけじゃなくて、異文化・異分野のコミュニケーションの中で、かんちがいや思い込みやすれちがいは日常茶飯事。私は個人的には、それを1つの一般論にまとめるよりは、たくさんの視点をそのまま点在させた方が、よりリアルなんじゃないかなと思ったり。ということで、「つけたしメモ」です。(ほんとは、ニューヨーク助成金事情とかもっと細かい事例中心にまとめたかったのだけど、テーマが大きすぎて力尽きた。。。)
ps。海外フェス事情については、大友さんのJAMJAM日記が、私の生真面目なメモなんかよりも全然おすすめ。私が欧米で活動しはじめる前から、愛読してます。つきつめると、フェスティバルやイベントの数だけ、状況もケースバイケースだし、大小いろんなドラマとか、いいことも悪いこともあったりなかったり。というリアル。
<つけたしメモ>
■私は助成金事情の専門家じゃないし、その分野の本もしっかり読んだことはないです。6年ニューヨークに住んで、アーティストとして10年ぐらい欧米で活動してきたのですが、今でも全然わかってないなあと思うし、新しく気づくことが毎回たくさんあります。これを前提の上でのメモです。(sawakoのプロフィールはここ)
■欧米と日本の助成金事情を比較することって、極端に例えると「医療費が国民全員無料の国」と「医療費が高すぎて盲腸になると破産する国」を比較するようなものだと思います。「社会システムと歴史的背景」「働くこと」「お金」「芸術」「しごと」「生活」などなどに関する価値観の微妙な違いがたくさんからんでて、なかなかお互いのリアルな感覚がつかみにくい。
■日本のアーティストは日本からなかなか助成金も出ないし航空費など経費がかかるということが、逆に欧米のオーガナイザーにとっては、召還するときの悩みの種になることもあります。日本の助成金のことで相談されたり、どうやってお金を集めたらいいか知恵をしぼってる話や思ったより集客がなくて悲しかった&苦労した話をきいたりすることもあります。日本の感覚だと「旅費もだしてもらえてギャラも多い!ヨーロッパってお金があるんだなあ」かもですが、国によっては日本と逆で「どうして国からお金がでないの?」ってびっくりされることも。
■一口に「海外」って言っても、例えば「ヨーロッパ」でも、パリとニューヨークとドイツとギリシャでは違うし、「アメリカ」という国とひとくくりにしても、ニューヨークとテキサスでは状況が違う。
また、助成金と一口にいってもいろんな文脈がありますよね。公的なものか私的なものか、とか。どういう経路でお金がでてるのか、とか。例えば、地方の音楽フェスとアルスエレクトロニカとヘイワードギャラリーとではお金の流れが違うし。
なので、一般化するのは難しくて、やっぱりその土地その土地、どのフェスティバルかなどでケースバイケースだと思う。
例えば、下の4つのうち、ニューヨークは3番がそんなになくて、4番がまったくないです。
(1)NPO、美術館、イベント、フェスティバルへの助成金
(2)アーティスト個人へのプロジェクト単位での助成金
(3)アーティスト個人への旅費の形での助成金
(4)個人がお給料みたいな形で国から定期的にもらってるお金
日本と比べて、ニューヨークはIssue Project Room、Jonas Mekasのanthology film archives、Roulette、free103point9、turbulance/networked music reviewのようなNPO団体が活発。(例えば、日本でlooplineがNPOとして助成金をもらって、レーベルやスペースの運営を行ったり、地域の小学校や都庁でイベントをするような感じ。)NPOへの寄付税優遇があるので、例えば、「5000円払ってloopllineの会員になるとバッグがもらえて3回入場無料で、会員費は所得から差し引かれる税制優遇(寄付扱い)になる」みたいなシステムが一般的で、お金持ちじゃなくても寄付は一般的です。助成金額が大きいとペーパーワークが大変なことが多い。アーティストも、助成金申請のとき予算案が重要になることがある。そのためにビジネス面が学べるセミナーも無料で気軽にうけれるシステムがある。(これもNPO団体がやってます。)一般のお客さんでも「なるほど」と楽しんでくれたり「どうしてこういうことをしてるのか」と質問してくる人が、日本に比べると多い気がする。
どうして、ニューヨークで文化に日本よりも大きなお金が動いているかについては、「寄付に関する文化背景と歴史と社会システムの違い」「フルクサス、ジョンゾーン、クリスチャンマークレーなどの先達が活躍して土壌をつくってくれたから」「何か新しいことにチャレンジする人を応援する風土」などの背景が、他の地域と比べて特筆することかなと思います。他に「ニューヨークらしい!」と私が感じたことでは、「emerging artist(日本だと新人アーティスト・若手アーティストにあたる言葉)」のための助成金に年齢制限がないことが多くて、30~40代以上の人も実際もらってる&場合によっては年齢が高いことが有利になるということ。(例えば、45歳で弁護士やめてアーティストになりましたみたいなケース)
■個人的な感触としては、助成金が日本よりもらいやすい国でも、一般的な収入源の選択肢が多いというだけで、「ほんとうに自分の納得のいくイベントをやる大変さは同じ」「お金をもらってる人はそれなりに行動したりリスクと代償は払ってる」だと思います。これは、そのアーティストそれぞれの経験や置かれてる立場によって意見がわかれるかもですが。
あと、今はネットもあるし(=助成金がとりやすい国のアーティストとチームをくむとか。海外の助成金で日本在住日本人でも応募できるものもあることだし)、それが自分にとってベストと思ったら住む国も選択肢がある、という点もあげておきたいです。